イルカ私は看護師で、既に定年退職という区切りを迎え、現在は嘱託として、病院の患者サポートセンターという部署で患者様やご家族の入院前の面談を行っています。よろしくお願いします。
はぐくみネットにご相談を寄せてくださる方々は、本当に年齢の幅が広く、これまで社会やご家庭でさまざまな経験を重ねてこられた方も多数いらっしゃいます。そしてその先に看護の道を見出された、心から歓迎します。
ご相談をうかがっていると、誰にも話せない、相談する人が身近にいない、わかってくれる人がいないと、孤独を感じていらっしゃる方もおられます。はぐくみネットにつながり、先ずは話すことで状況は動き始めます。もう一人ではありません。
さて、誰にでもこれまで辿ってきた道を振り返ってみると、心に深くにしみこんでいる、その人との出会いがなければ、今の私はないかもしれないというような体験があるのではないでしょうか。
「人はなぜ追憶を語るのだろうか。どの民族にも神話があるように、どの個人にも心の神話があるものだ。」 これは北杜夫の『幽霊』の冒頭です。十代の頃読んだこの文章がずっと私に残っています。
Z先生のこと
Z先生はある精神科単科病院の医師で、大学の「特別講義」という授業に来られていました。当時私は仕事を辞めて、カウンセリングコースのある大学に編入し、Z先生の特別講義を選択していました。その講義は院生も選択でき、講義に出るうちにKさんという女性の院生と親しくなりました。Kさんは沖縄のノロやユタの研究をしていて、知人からZ先生の講義をぜひ選択するように勧められたと言っていました。ある時、Kさんが私に「Z先生は凄いのよ。毎回、教室に入ってきた時に学生全員を見渡して、一瞬のうちに精神的にあやういと感じた学生を見つけると、講義中ずっとその学生だけを見つめながら授業するのよ。」と言いました。私は「ええっ?そんなのなんで一瞬でわかるの?そんなことある?」と思い、日が経つとそのことは忘れていました。
Z先生は講義の時には自分で黄色いフォルクスワーゲン(旧型)を運転し、校門を少し入った所に雑に止めて、白髪に眼鏡、小柄な体に長めの白衣の裾をひらひらとさせながら歩く、飄々とした雰囲気の方でした。
講義の中で、カウンセラーとしての在り方「寄り添う」とはどのような事なのかを学生に伝えるのに、古いアメリカ映画『心の旅路』を講義中に観せてくださいました。この映画は、ある女性が、愛している男性が事故で記憶喪失になり、男性が記憶を取り戻すために献身するという(ストーリーは二転三転します)、一見珠玉の恋愛映画なのですが、見終わってZ先生は「これが寄り添うということなんです!!」と力強く言われたのを覚えています。きっと、記憶を取り戻してほしいがために、自分が先回りして何かを企てるとか、自分本位の言葉を重ねるとか、そういったことをせず、あきらめないで相手に合わせてついて行く、というかかわりを言われていたのだと思います。また、「僕はね、コーシー(コーヒー)が好きなんですよ」とよく言われていました。「コーシー」としか聞こえませんでした。
社会人から学生に戻って、私は楽しい学生生活を送っていたはずでした。そうした中で、ある人との人間関係がうまくいかず考え込み、気が付けば抑うつ状態のようになっていました。そのうち食事も喉を通らず、学校に行く意欲もなくなり、寝てばかりいました。 どれくらい休んだでしょうか、ふと起きて「今日は何曜日だったか……?あ、Z先生の講義がある」「午後から……どうしよう……間に合う」なぜかその時はZ先生の講義には出なければいけないと感じ、そして何としても行きたいと思いました。やっと起き上がって支度をし、それこそ這うようにして学校に行きました。教室に入りいつもの席に座り……Z先生……来られた……教室に一歩入った所で学生の方を見ます。その時私は焦点の合わない目でどこを見るともなくそこにいたと思います。教壇に立たれた瞬間、私の目は吸い寄せられるようにZ先生の目に向かい、視線が合いました。その強いまっすぐの怖いほどの目・視線は、これまでの飄々としたユーモアに満ちた目とは全く異質で、私はその視線から目をそらすことができませんでした。そして、その日 Z 先生は、ずっと私だけを見つめながら講義されたのです。
その日の講義のあと、私はどのように過ごしたのか、どのように日常を取り戻していったのか覚えていません。Z先生とその日のことについてお話したこともありません。 その後、私は大学を中退しました。
振り返れば、もう少し頑張っていればとも思いましたが、私は Z 先生に会うために、その時のためにあの大学に行ったのだと感じています。
このような体験のあと、だから私はこうしていきたいとか、こうなりたいというようなことは思いませんでした。それは、今ここに生きている私をかたちづくっている、何と言っていいかよくわからないのですが、ことばにすると、その体験がその時感じたものとは異なってくるような、ことばでは追いつかない何か、何というか……たましいで知る・わかる体験だったと思うからです。
かつての体験の中には、その時点で終わるものではなく、年月の経過とともに熟成され、その時が来ると再び動き始める体験もあります。私の、Z先生からおくられた体験が、これから再び動き始めるのか。それは自身がどれだけ成長するのかにかかっているようです。 皆さんは、どのような神話をお持ちでしょうか。
ありがとうございました。
ご相談は、24時間受付の公式LINEから受け付けています。
LINEで気軽にご相談いただけるほか、ご希望があればオンラインでのご相談も可能です。
ご希望の方は、下記のLINEアイコンをクリックして、友だち追加をお願いいたします。


ご相談の前に必ずお読みください
- つらいお気持ちは、そのままお話しください
「消えたい」「もう限界」——こんなことを話していいのだろうか、と迷わないでください。ありのままのお気持ちを、そのままお話しください。私たちは、相談者さまのつらさを受け止め、一緒に考えてまいります。 - 秘密は守ります
お話しいただいた内容を、相談者さまの同意なく第三者にお伝えすることは、原則としてありません。
ただし、相談者さまご自身または他の方の生命に危険が差し迫っていると判断した場合には、救急・警察等へ連絡することがあります。その際は、できるかぎり事前に相談者さまへお伝えします。
同意が得られないときであっても、命を守ることを最優先に対応します。 - 必要に応じて、専門の窓口をご案内します
私たちは、ハラスメントの相談をお受けする団体です。
医療・心理の危機対応を専門とする機関ではないため、ご相談の内容によっては、より適切な支援が受けられる窓口をご案内することがあります。
なお、専門の相談窓口をご利用いただきながら、当団体の相談員とのやりとりを続けていただくことは可能です。
専門の相談窓口のご案内はこちら
https://change-school.org/lifeline/
